ブーツについての試行錯誤 ~ バックカントリースノーボードでのブーツ選び

■スノーボード黎明期

1980年代、スキー場で初めて出会ったスノーボーダーはボード用ブーツを履いていなかった。皆、SORELのロングブーツか皮製の登山靴を履いていた。ボード用ブーツはまだ国内にほとんど流通していなかったためであろう。もともと登山をしていた私は、その足ごしらえを見て、クロスカントリースキーや山スキーと同じことがスノーボードでもできると直感した。これなら山へボードを担いで持って行き、歩いてきたブーツで滑ることができる、、、

しかし、当時はまだスノーボードの情報が乏しく、元々ゲレンデスキーをしていた私は、山スキーを始めることになる。

それからしばらくしたある日、神保町界隈のスキー用品店街を徘徊していると、スノーボードショップの店先に、見覚えのあるブーツが、、、
Koflachの山スキー兼用靴?
いや違う。こんな店にあるはずがない。
手にとって よ~く見てみるが、兼用靴と同じ構造。これはアルペン用スノーボードハードブーツだった。

当時、ハードブーツはそのほとんどが山スキー兼用靴と同じモノであった。 ハードシェルにビブラムソール、そして歩行/滑走モード切替レバーが付いている。

Koflach・Raichle・Kastingerなどのメーカーがアルペン用として兼用靴を流用していたのだった。中には左足への加重を配慮して左足のインナーを大きめに作り直したモデルも存在した。(写真参照)

このようにスノーボード黎明期のブーツは登山と近い関係にあった。

■試行錯誤の日々

「フリースタイルボード」+「ソフトバインディング」+「冬山用登山靴

実際に山へボードを担いで行くまでにはさらに数年の月日が流れることになる。1990年代後期、5月の連休、乗鞍岳へボードで初BC(バックカントリー)。

この時は冬山登山で以前から愛用していたKoflach製の登山靴(写真参照)にフリースタイルボードという組み合わせで望んだ。5月とはいえ、3000m峰の乗鞍岳は厳冬期並みに過酷な条件になることも考えられる。冬山装備で登ることは当たり前だ。登山靴を選択することに何の迷いもなかった。

しかし、乗鞍岳を目指すボーダーは、私以外、皆、スノボ用ソフトブーツであった。

「フリースタイルボード」+「ステップインバインディング」+「ソフトブーツ」

翌シーズンは「Swithステップインバインディング」+「スノボブーツ」でトライ。ステップインバインディングは荷物の軽量化に大きく貢献した。しかし、ブーツのソールが滑り易い上に、キックステップが効きにくいため、急斜面の登りでは、雪山登山に慣れていた私でも苦労したことを覚えている。さらにステップインビンディングが曲者。岩場を歩いた際、衝撃でブーツ側の金具が変形し、止め難くなってしまった。

滑ることを重視すればボード用ブーツに軍配が上がる。登山靴は構造上くるぶしのあたりで硬さが急に変わるためターンし難いという欠点がある。しかしBCスノーボードでは「ハイクアップ(歩行)」に多くの時間を費やすこととなるため、まずは歩くことを重視するべきではないのか。しかも安全に。冬山用登山靴なら雪面へのキックステップも楽に決まるし、斜面のトラバースや岩場もボード用ブーツに比べ歩きやすい。ワンタッチアイゼンの装着も可能である。そして何よりも低温時の保温性が信頼できる。

■アルペンという選択

「アルペンボード」+「ハードバインディング」+「プラブーツ」

「フリースタイルボード」+「ハードバインディング」+「プラブーツ」

2000年前後だったと思う、アルペン用のボードを試してみた。フリースタイルに比べバインディングが軽量なことと、ボード・ブーツの着脱が容易なためだ。さらにアルペンを選んだ最大の理由は、私が使用していた冬山用登山靴(上記のKoflach製)が装着できたことだ。このタイプの旧式プラスチック製ブーツは、シェルの材質が硬く、コバもしっかりしていたので、アルペン用ハードバインディングでも装着可能だったのだ(当時、経年劣化により破損するといった事故が多かったのだが)。

さらに、「フリースタイルボード」+「ハードバインディング」+「冬山用登山靴」という一見無茶苦茶な組み合わせが、歩行を重視する最良の組み合わせとなった。
しかし残念なことに、この組み合わせは永久に封印されてしまった。近年の冬山用登山靴はシェルが柔らかく、ハードバインディングへの装着は可能だが外れ易い。非常に危険なため、ブーツの特性を見極めて試してほしい。

■滑り重視へ

「フリースタイルボード」+「ハードバインディング」+「山スキー兼用靴」

「ハードバインディング」+「冬山用登山靴」の組み合わせでは、バインディングにハイバックやストラップが無いため、足元はかなり不安定になり、お粗末な滑りを披露することになる。特に凍結した急斜面は悲惨で、全くターンができないこともあった。

そこで2003年からブーツをRaichleの山スキー兼用靴へ変えてみた。(「兼用靴」といってもスノーボードアルペン用としてリメイクされた製品。)

兼用靴は歩行モード・滑走モードの切り替えができ、ビブラムソール。ワンタッチアイゼン装着可。ただしシェルが硬いので慣れないと歩き難い。雪があればそれほど苦にならないが、岩場の下りや舗装道路はかなり辛い。歩行時の負担を軽減するため、写真のようにスノボブーツ用の背の低いインナーへ入れ替えた。

シェルがしっかりしているだけあって、足首から脛にかけてのホールド感は良い。
これならどんな斜面も怖くない?

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「パウダー用ボード」+「ソフトブーツ用バインディング」+「冬山用登山靴

こここまで様々な組み合わせを試したが、結局もとへ戻ってしまった。
2005年からは「Burton Fish」+「Burton MissionGT」+「ASOLO冬山用登山靴(Asolo AFS Expedition)」という組み合わせ。
「Burton Fish」+「Burton MissionGT」はボードに浮力があり、後足加重でのコントロールが非常に楽、特にパウダーで威力を発揮する。
ブーツは足首・脛のホールド感がいまいちだが、ターンの際は脚部をバランス良く使えばさほど気にならない。しかし、スピードに乗ってしまうと、こらえきれなくなり、ボードがズレまくる。急な雪質の変化やギャップにも弱い、、、衝撃はブーツではなく体全体で吸収しなくてはならない。

どうやら脚力の強化が必要なようだ。
しかし、無茶せず安全なスピードで滑れば何も問題はない。

■登山靴劣化で

「ボード:Burton Fish」+「ブーツ:冬山用登山靴」

2012年、ついにASOLO登山靴が劣化、ソールが剥がれそうになってしまった。そこで、夏場の価格が安い時期に入手したのは「LOWA CRISTALLO X PRO GTX」。冬山用登山靴。ワンタッチアイゼン装着可能!
2012年末の乗鞍ツアーコースでデビュー。さすがに登りは今までとは比較にならないくらい楽だ。しかし問題は滑走。昨シーズンまで使用していたASOLOプラブーツ以上に滑りにくい。
足首が全く固定されず、写真のようにバックルで補強してみたものの、ほとんど意味が無い。すねや足首へまともに荷重することができないため、膝やふくらはぎに負荷がかかる。

2013シーズンの後半からボードを「BURTON CUSTOM X(2010モデル)」へ。荒れた雪面を滑ることが多く、いまいち「Fish」の威力を発揮できていないことに気付いたので。
「CUSTOM X」+「登山靴」
このアンバランスな組み合わせが災いし大変な目に遭った。

5月の立山、山崎カールでは、凍結した急斜面にかなり手こずってしまった。ただでさえ恐怖心から山側へ荷重してしまうというのに、足首がグニャグニャなため、ボードへうまくパワーが伝わらない、ボードがズレまくる。そして大転倒、、、

と、悪いことばかり書いてしまったが、きちんと圧雪されたゲレンデや、雪面が柔らかい斜面では、無茶しなければ登山靴ということを意識することなく、快適に滑ることができる。

■DEELUXE SPARK XV

「ボード:BURTON CUSTOM X」+「バイン:BURTON CARTEL est」+「ブーツ:DEELUXE SPARK XV」

2014シーズン、ついに「SPARK XV」を入手。登山靴と同じビブラムソールを採用し、セミワンタッチアイゼン装着可。まさにバックカントリーのためのブーツ!「CUSTOM X」との組み合わせで、荒れた雪面でもスムーズなライディングが楽しめた。
登山靴に慣れているためか、登りは動きにくく感じたので靴ヒモを全開まで緩めた。また、ツボ足でのキックステップが多少効きにくい気がする。シェルの硬さ・重量・つま先の形状のせいだろう。

■AT(山スキー)ブーツ + スプリットボード

「ボード:BURTON SPLIFF148」+「バイン:F2 Curve RS」「ブーツ:DYNAFIT VULCAN」

2022シーズンからはかなり変態的なギアに。スプリットボードにアルペン用バインディング、ATブーツ。以前試した山スキーブーツが案外調子良かったことを思い出し、再度この組み合わせで試行錯誤中。

ATブーツ+スプリットボードのハイクモードでは急斜面トラバースもスノーボードブーツより安定して歩行できる。ボードを外し登る場面でも、ブーツのソールは登山靴に近く安心感がある。ブーツへのアイゼン装着も問題無い。

滑走では足首をガッチリ固定してしまうとコントロールし難いので、ブーツを歩行モードのままにしている。

さらに、スプリットボード歩行モードでシールを外しヒールロックすれば、スキーのように滑ることもできる。林道のような傾斜の緩いルートが続く時は、案外この方が楽に通過できる。

■スノーシューは万能か

バックカントリースノーボードでのハイクアップはスノーシューに頼ることが多い。近年、高性能なスノーシューが現れ、深雪だけでなく凍結した斜面にもある程度は対応できるようになった。スノーシューを装着していれば、ソールの形状など関係ない。ビブラムは不要だろう。しかし、急斜面のトラバースや岩場などスノーシューを脱がなくてはならない場面に遭遇することも多いはず。そのような場所をスノーボードブーツで安全に通過できるだろうか?
現在一般的なバックカントリースノーボードのスタイル、「スノーボードブーツ」「スノーシュー」「ストック」は決して万能ではない。 「登山靴」「アイゼン」「ピッケル」が雪山の基本だ。「バックカントリー」という軽い響きに惑わされてしまいそうになるが、「冬山登山」であることを肝に銘じ、登る(滑る)エリアにあわせた装備を揃えて欲しい。